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「探偵の口笛」は、海外ミステリに登場するクラシック音楽のセンテンスを毎日読んでいます。
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3月19日(1417回)から、5月5日(1464回)まで、フランシス・アイルズの長篇3作と、関連文献を読みました。
5月6日(1465回)は、ジョン・ロス・マクドナルドのリュー・アーチャーものの長篇第2作「魔のプール(The Drowning Pool )」(1950)を読みました。
本日(1466回)も、「魔のプール」(1950)を読みたいと思います。
昨日(1465回)の続きです。
「リュー、こんどは昼間いらっしゃいよ。パリから新しいシュトラウスのレコードが来たのよ」
Macdonald,Ross(1915~1983)ロス・マクドナルド(米)ミステリー。初期のペンネーム、 John Macdonald、John Ross Macdonald および Kenneth Millar (本名)。Margaret Millar の夫。
牛乳は、にきびが発生
ハメット、チャンドラーの正統な後継者であり、陽光に祝福され、大海に口づけされる腐敗したカリフォーニアを背景にした私立探偵小説を書いた。探偵はリュー・アーチャー(Lew Archer)。小さな、みすぼらしいオフィスを根城に年じゅうひまなく型どおりに働き続け、近代絵画や現代作家に造詣が深く(主人公にはちょっとそぐわないが)、原作者自身の言葉を借りれば、「アメリカ民主主義社会の中の無産階級の不安定な男」ということになる。マクドナルドは、チャンドラーの鮮明な文体を受け継いでいるが、それだけではない独特の言葉も持っている。持ちすぎていることもまま見受けられる。だが、突然の輝きを見せる彼の描写力は、一介の私立探偵の気のきいたコメントの域を超えている。とはいえ、その輝きは、物語を読者の目に深く鮮明に映し出し、読者の想像力を素直に刺激する鋭い社会批評を下す機会をマクドナルドに与えているのだ。そのために批評家たちは彼を、アメリカの犯罪小説の大家と� ��うだけでなく、アメリカの主要作家の1人に数えるようになった。
The Galton Case (「ギャルトン事件」)(1960)
(C)★★★★★★★★
(P)★★★★★★★★
(R)★★★★★★★★★
(T)★★★★★★★★
The Far Side of the Dollar (「ドルの向う側」)(1965)
(C)★★★★★★★★★
(P)★★★★★★★★★
(R)★★★★★★★★★
(T)★★★★★★★★★
Sleeping Beauty (「眠れる美女)(1974)
(C)★★★★★★★★★
(P)★★★★★★★★
肥満のまん延
(R)★★★★★★★★★
(T)★★★★★★★★
「代表作採点簿」(「EQ」NO41 1984年9月号)─名和立行訳─
「代表作採点簿」は、H・R・F・キーティング編によるミステリー・ガイドブック「Whodunit?」(1982)の第一章だそうです。執筆者は、H・R・F・キーティング、ドロシー・B・ヒューズ、メルヴィル・バーンズ、レジナルド・ヒル、の四人だそうです。
「採点簿」の「採点基準」はつぎの通りです。
(C)Characterization=登場人物がよく書けているか。
(P)Plot=物語の趣向や筋立てがよくできているか。
(R)Readability=読みやすさ、つまりページを繰らせるスピードがどれくらいあるか。
(T)Tension=サスペンスの要素はどれくらいあるか、読者をどの程度ハラハラさせるか。
「太平洋精油か」わたしは溺死した老婆のことを考えながら、ゆっくりとはっきりいってみた。
「タクシー会社でもやってるんだと思ってた」
「グレンディルでもちょっとそんなこともやってるようだ。あっちこっちに手を出してるが、中心はやはりパレコだよ。ノーパル・ヴァレイに石油が出たとき、早くから手を打ってね」彼はあくびをして、女房の肥った肩に頭をもたせかけた。「リュー、もう嫌だよ」
「話してくれ。すごいよ。それで、住居はどこだ?」
スケジュールII痛みクスリの状態を義務付け
「サン・フェルナンド・ヴァレイだ」彼は目を閉じてしまった。ヒルダが書類整理箪笥のように中身の詰まった彼のおでこを、母親のような手つきで丁寧になぜてやる。「スタフォードシャイア分譲地だ。特別通行証がなければ入れてもらえないような分譲地さ。おれも独立記念日のパーティに行ったことがある。主賓は議員さまだったぜ」
「上院議員か州議員、どっちだい?」
「もちろん上院議員さ。そうだろう?州議員なんて二束三文の値打もない」
「民主党か共和党か?」
「同じことだろう?まだ、十ドルもらえないのかい?脳味噌泥棒!人の褌で相撲をとろうというんだろう?」
「もうひとつだけだよ、街頭博士。そいつの金は、そもそもはどこから出たんだ?」
「おいおい、おれは税務署の役人じゃないぜ」彼は肩をすくめてみせようとしたが、それも大儀だと思ったらしい。「そうだろう?」
「税務署で知らないことも、知ってるくせに」
「おれは何も知らんよ。おれの耳にはいるのは噂だけさ。おれをおだてて、名誉棄損を犯させるつもりか」
「話せよ」
「まるでナチの突撃隊だな」
「いくらなんでも、そんなこというもんじゃないわよ」ヒルダがたしなめるようにいった。
わたしはまた質問を繰り返した。
「金だ。どこで手に入れたんだろう?」
「まさか金のなる木を持ってたわけでもあるまい」そういって彼は、あくびをかみころした。「話によると、キルボーンは戦争中にデトロイトで、車の闇取引でうまいことをやったらしい。それから、急いでこっちにとんでくると、その金をだれかに取り上げられるまえに、合法的な投資をしたんだね。いまではカリフォルニアでも大物で、政治家のお歴々が彼のパーティに出席するというありさまだ。おれから聞いたといってもだめだぜ。また聞きの噂話にすぎないんだからな。いま考えてみると、その噂というのも、もっと悪いことをかくすために自分で拡めた噂かもしれん」
モリスは夢を見てるような笑顔で部屋のなかを見まわすと、坐ったまま眠りこんでしまった。ヒルダは眼鏡を外してやって、だらしなくなった子供っぽい体をベッドの上に寝かしてやった。わたしは十ドルを彼女に渡すと、戸口のほうに行った。
彼女は後をついてきた。
「リュー、こんどは昼間いらっしゃいよ。パリから新しいシュトラウスのレコードが来たのよ」
「そのうち暇ができたらね。これからネヴァダに行かなければならないんだ」
「本当?」
「本当らしいよ」
「奥さんはネヴァダだったわね?」丸々と肥った顔がぱっと笑顔をたたえる。「奥さんと仲直りしに行くのね!」
「まさか。仕事で行くのさ」
「きっと奥さんを連れて帰ってくるわよ。待ってるわ」
「あれはいまさらどうもならないさ。だれがどうしようと、一度ひびのいった仲はもとには戻らないね」
「まあ」彼女はいまにも泣きそうな顔をした。「あんなに似合いの夫婦だったのにねえ」
わたしはその腕を叩いた。
「あんたはきれいだし、やさしくていい奥さんだね」
モリスが眠ったままうなっていた。わたしは外へ出た。
引用部分は、ジョン・ロス・マクドナルド「魔のプール」(1950) 井上一夫訳 創元推理文庫 1967年の発刊です。
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